2018年06月27日

【高齢者の口腔ケア】お口の中の細菌が、肺炎や心臓病、糖尿病の原因にも

歯ブラシ

高齢者においては、虫歯や歯周病などお口の中の健康にトラブルを抱えている人も多く見られます。

また、一般的に加齢とともに「噛む」「飲むこむ」といった物を食べるのに必要な力は衰えていくため、高齢になっても心身の健康を維持していくためにはこうした機能の訓練は欠かせないものといえます。ここでは、お口の中の健康を保ち、自力でものを食べる能力を維持・回復するための口腔ケアについて解説していきます。

加齢とともに口の中の状態も変化する

高齢者に多く見られる歯や口の健康トラブルとしては、まず虫歯の増加や歯周病があげられます。長く生きていれば、それに応じて虫歯やその治療跡が増えていくのはある程度しかたのないことですが、加齢とともに口腔内では下記のような変化も起こるため、高齢者は虫歯や歯周病になりやすいという一面もあります。

歯や歯茎の変化
歯茎が退縮し、歯のつけ根が露出することで、歯と歯茎の境目がくさび型にすり減ったり、露出した歯の根元部分に虫歯ができやすくなったりします。また高齢者の口腔内では、歯と歯や、歯と食べ物、あるいは歯と義歯などの摩擦によって歯がすり減る咬耗(こうもう)が進行しているケースも多く見られます。さらにこうした歯や歯茎の変化は、入れ歯があわなくなる原因にもなります。あわない入れ歯を使いつづけることは、口の中を傷つけたり、炎症の原因となったりする場合もあるため注意が必要です。

・細菌が増殖しやすくなる
高齢になると、唾液を分泌する機能の低下により、若いときよりも口の中が乾燥しやすくなります。また高齢者においては、薬の副作用などにより、さらに唾液が出にくくなっているケースも少なくありません。こうした症状はドライマウス(口腔乾燥症)と呼ばれる場合もあります。口腔内が健康であれば、歯の表面や舌、口の中の粘膜などについた汚れや細菌は、ある程度唾液によって洗い流されます。しかし、唾液の分泌が低下していると、口の中は細菌が増殖しやすい環境となり、これが虫歯や歯周病、口臭などの原因となります。

・味覚の減退や味覚障害
口中の乾燥や汚れは「味を正しく感じられない」ことの原因にもなります。口の中では、舌や口の粘膜にある味蕾(みらい)という器官が味を感知していますが、この味蕾は若いときほど多く、高齢になると新生児のときと比べて半分~3分の1程度まで減少するといわれています。「何を食べても味がしない」「味を薄くしか感じられない」「いつも口の中で苦い味がする」といった味覚障害は、薬の副作用が原因で起こるケースもありますが、唾液の分泌量の減少や、舌に付着する舌苔(ぜったい)をはじめとする口の中の汚れが原因となっている場合もあります。

高齢者の口腔ケアの目的

歯の治療

高齢者における口腔ケアは口の中を清潔に保つためのケア口腔機能の訓練を中心としたケアの2種類に分けられます。まず口の中を清潔に保つケアとしては、日々のうがいや歯磨き、歯科医師や歯科衛生士による歯垢や歯石、細菌の除去などがあげられます。また介護施設では、介護職員や看護職員が利用者の口中や歯の清掃をおこなう場合もあります。口の中を清潔に保つことは、虫歯や歯周病、口臭などを予防するだけでなく、味覚や食欲の改善にもつながります。

一方、口腔機能の訓練を中心としたケアは、おもに「噛む力」や「飲み込む力」を維持・回復するためにおこなわれます。高齢者においては、食べ物などが誤って気管に入ってしまう誤嚥(ごえん)を起こす人が多く見られますが、誤嚥の際に細菌が食べ物や唾液と一緒に気管に入りこんでしまうと、誤嚥性肺炎を発症する可能性もあります。肺炎は高齢者に多く見られ、日本人の死因の第3位にもなっていますが、なかでも誤嚥性肺炎は肺炎で入院する70代の7割、80代の8割を占めるともいわれています。

この誤嚥やそれに伴う肺炎を予防するには、食べ物や飲み物を「噛む力」「飲み込む力」「吐き出す力」などを訓練することが重要であり、こうしたトレーニングは、病院のリハビリテーション科や介護老人保健施設(老健)などにおいて、言語聴覚士(ST)によっておこなわれています。また老人ホームやデイサービスなどの介護施設では、食べることに必要な口のまわりの筋肉を「パ」「タ」「カ」「ラ」の4つの音を発音することで鍛えるパタカラ体操や、唾液の分泌を促すための指先を使った唾液腺のセルフマッサージなども広くおこなわれています。

なお誤嚥性肺炎は口中で増殖した細菌が原因となって起こるケースが多いため、口腔ケアをおこなう際には、口中を清潔に保つケアと口腔機能の訓練をあわせておこなうことが望ましいといえるでしょう。

お口の中の健康が認知症や心臓病、糖尿病にも関係

また近年では、お口の中の健康状態が認知症リスクに関係しているという報告も多くおこなわれています。たとえば日本歯科衛生士会の資料では、認知症の判定を受けていない健康な男女4425人に対して4年間の追跡調査をおこなった際に、「歯がほとんどなく義歯を使用していない人」は、「自分の歯が20本以上ある人」に比べて認知症を発症する割合が高いという調査結果が出たことが報告されています。

また日本老年学的評価研究(JAGES)の資料では、日本全国の6万2333人の高齢者を3年間にわたって追跡調査したデータから、歯が少ない人ほど身体機能や認知機能が低下しやすく、友人との交流が減少しがちなことや、3年後に自立した日常生活をおくることが困難になっている可能性が高いことが報告されています。

こうした調査からは、お口の中の健康が食べることや噛むことだけでなく、会話(しゃべること)を通じた他者との交流や、運動機能、生きる意欲などにも関わってくることがわかりますが、近年では歯周病が糖尿病や心臓病のリスクを高めることも明らかになってきています。これはおもに、歯周病菌が口中の傷や歯茎などから血管に入り、心臓病や糖尿病を引き起こす原因になるためといわれていますが、特に抵抗力や免疫力が低下している高齢者の場合はこうした病気を発症するリスクも高くなるため、さまざまな疾患を予防するための口腔ケアは欠かせないものといえるでしょう。

口腔ケアの効果

歯科医師と男性

お口の中の健康は「食べる」「話す」「呼吸する」「笑う」など、人間が生きていくうえで必要なさまざまな行為に深く関わっています。

お口の中の健康を維持するための口腔ケアとしては、もちろん日々の歯みがきやうがいも大切ですが、高齢者の場合は「正しく噛める状態」をキープするために、定期的に歯科医師の検診をうけてお口の中の状態をチェックすることも必要といえるでしょう。病気や障害などで病院に通いにくい人の場合は、居宅を歯科医師や歯科衛生士が訪問し、虫歯の治療や入れ歯の作成、口腔ケアなどをおこなう訪問歯科のサービスを利用する方法もあります。なお訪問歯科では、通常の医療保険による治療のほか、介護保険による居宅療養管理指導もおこなっており、要介護(要支援)認定を受けている人であれば、1割(一定以上の所得がある人は2割)の自己負担で、口腔ケアや口腔リハビリテーションといったサービスを受けることもできます。

また「ものが食べにくい」「飲みこみにくい」、あるいは「むせやすい」という人は、言語聴覚士による口腔機能の維持・回復のためのリハビリやトレーニングが必要かもしれません。こうしたリハビリやトレーニングは、言語聴覚士が在籍する病院のリハビリテーション科や介護老人保健施設などで受けることができますが、病院や施設に通いにくい人の場合は、言語聴覚士による訪問リハビリテーションを利用する方法もあります。

これまで述べたように口腔ケアにはさまざまな種類や方法がありますが、もし「食べること」や「飲みこむこと」に不便を感じたり、「口の中がかわく」といった症状が自覚されたりした場合には、まずはかかりつけの医師や歯科医に相談のうえ、適切な指導を受けることが大切といえるでしょう。

▼参考資料
・高齢者のお口の健康 一般財団法人 日本口腔保健協会
http://www.jfohp.or.jp/okuchikenko_navi/senior/index.html

・味覚障害 公益財団法人 長寿科学振興財団
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/jibikashikkan/mikakushogai.html

・要介護高齢者の口腔ケア 厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-08-003.html

・誤嚥性肺炎から高齢者守れ 料理・発声リスク減 日本経済新聞
https://style.nikkei.com/article/DGXKZO27302570T20C18A2TCC000?channel=DF140920160925

・お口の健康と認知症の関係 公益社団法人 日本歯科衛生士会
https://www.jdha.or.jp/pdf/hatookuchi_2017060101.pdf

・歯が少ないほど3年後に自立した日常生活が困難になる 日本老年学的評価研究(JAGES)
https://www.jages.net/about_jages/puress/?action=cabinet_action_main_download&block_id=967&room_id=35&cabinet_id=20&file_id=3382&upload_id=3988

・長寿の鍵は“口”にあり~口腔ケア最前線~ NHKクローズアップ現代
http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3587/1.html

・訪問歯科って何? 一般社団法人 日本訪問歯科協会
http://www.houmonshika.org/patient/about/

・居宅療養管理指導 独立行政法人 福祉医療機構
http://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/kaigo/handbook/service/c078-p02-02-Kaigo-08.html

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